トークショー脚本家・大石静さんが説く、
「おおらかに生きる」大切さ
脚本家 大石静さん
代表作に「ふたりっ子」「セカンドバージン」「家売るオンナ」「大恋愛~僕を忘れる君と」。2019年7月には「永遠のニシパ ~北海道と名付けた男 松浦武四郎~」(NHK総合)が全国放送予定。
数多くの大ヒットドラマを生み出している大石さんのトークショーは、お仕事の話からスタートしました。
「脚本家の仕事についてあまり知られていないことがとても残念です。小説や漫画などの原作を脚色する人を脚本家と思っている方が多いようですが、ヒットドラマには脚本家がゼロから物語を立ち上げるオリジナル作品が多数あり、私自身の作品もほとんどがオリジナル。脚色も否定はしませんが、私は、作者としての私の哲学を込めた“私らしい”作品を生み出すことに魅力を感じます」
セリフ回しが秀逸といわれる大石さん。セリフにもこだわりを持っているそう。
「脚本は物語をセリフのみで表現します。だからこそ、セリフの細かな言い回しはとても大切ですし、『キャラクターはセリフの語尾に宿る』と思っています。なのに、若い役者さんにはこだわりの語尾を変えてしまう人もいて、残念に感じることも多々あるんです(笑)」
そんな裏話には、来場者も興味津々で聞き入りました。
ラブストーリーの名手と称され、作品を通じ、たくさんの女性を勇気づけてきた大石さん。大石さんらしさとは?
「既成の価値観を疑うまなざしでしょうか。世間で正しいと言われている価値観は、どの人生にとっても必ず正しいことなのだろうか。それはセリフ一つひとつというよりは作品全体に、そういうまなざしを込めていますね」
大石さんは20代の頃に甲状腺のがんを発症し、人生観が変わりました。「再発もしたので、30代まで生きられたらいいなと思っていました。だから、やりたいことは今やる、欲しいものはすぐに手に入れるという価値観になってしまいました。今楽しいことを見つけて、全力で生きる。毎日がその繰り返し。みなさんだって明日どうなるのかなんて分からないですよ」と来場者に熱く語りかけます。「生真面目に生き過ぎるのも面白くないのでは? 私は老後のこともそんなに考えてないんですよ」と不確定な未来ではなく、今を生きることの大切さを伝えてくれました。
大石さんは以前「歳を重ねていくことを成熟ととらえる」と発言されています。「きれい事ではなく、心からそう思っています。去年、パリに行ったら、目に留まるカッコいい人はみんな大人たち。フランスでは歳を重ねた人たちがすごく尊敬され、若い人たちも、長く生きてきた人が輝いていて当然という価値観がありました。新しければいいというものではない。そんな文化はうらやましい」
トークショーでは来場者からの質問にも答えました。1つ目の質問は「人生の終点に向けて、自分の考え方をどのように持っていけばいいでしょう?」というもの。「私じゃなくて自分に問いかけて! 人に聞いたりインターネットで調べたりするんじゃなくて、とことん自分に聞く。心の中で自分と語り合ったら、おのずと自分の大切にしたいものが見えると思います」と回答。2つ目は「考えることやすることが多くて疲れます。大石さんが『やらない』と決めていることはありますか?」という質問。これには「何もありません。どうしてそんなに自分を過剰に律するのかしら? もっとおおらかに生きたらいいと思います。『こうしなきゃ!』と思い過ぎるのはよくないですよ。もう少し伸び伸びと生きていいんじゃないかしら」と答えます。
凛とした中にも、温かい優しさのある大石さんの言葉には、会場全体が励まされました。
最後に大石さんはこれからのご自身の夢について語りました。
「私の夢は、死ぬまで脚本家でいること。最期まで現役でいたいし、それができたら幸せです」