トーク
セッション
「なやみのとびら」特別編
読者からの質問を、湯山玲子さんと石田衣良さんにその場でぶつけてお答えいただいた「なやみのとびら」特別編。
その一部をご紹介します。
サボる同僚にうんざり (40代・女性)
上司が在宅勤務になるとサボり、かつ威圧的な態度になる同僚がいます。この人に対する最強(で即効性のある)対応策を教えてください。
湯山 一刀両断でいきますよ。質問者が見ている方向を変えることです。会社で働く人は“雇われて稼ぐプロ”なんだから、同僚を見るのはやめて、会社が利益を出す方向を見ないと。
石田 そうは言っても「あの人がいると職場の雰囲気が悪くなる」っていうパターンもあるじゃない? 誰かがサボるということは、別の人に負担がかかるわけだし。
湯山 なるほど。サボる人がのせいで、仕事のしわ寄せがくれば不満もたまりますね。
石田 正攻法で、みんなのメンタルを守れる作戦がいいよね。
湯山 じゃあ“えん魔帳”をつけちゃおう。その人の悪事をみんなで集めて直訴。人事評価で正当に裁いてもらう。
石田 日時と一緒に出来事をメモしておけば、法廷でも証拠として認められますからね。
推し活がうらやましい (50代・女性)
推しができません。推し活をしている人を見ると、あんなに愛を注げる対象がいてうらやましくなります。
お二人に推しはいますか?
自分の人生をささげて
文化を育てたい
石田 大の大人に、推しなんていなくていいんですよ。推しがいない人って、すごく幸せなんですよ。みんな推しを応援しているっていうけれど、心理的な反転現象が起きていて、推しへの思いは全部自分に向かっているんです。「もっと自分を応援したい」「もっと私を評価したい」って心の底では思っている。だから、強烈な推しは持たない方が幸せな人生を歩んでいる人なんです。
湯山 推し活は、熱狂的なファンがお金をたくさん落として応援するだけになっていて、文化を醸成していく段階には進めていない。だから推しがきっかけで新しい世界を知った皆さんには「いい観客」に育ってほしいですね。その文化のフィールドを好きになり、正しく評価して育てるような観客に。
石田 それは理想だね。厳しくて優しい観客になってほしい。「厳しいことを言ってもあの人はわかっている」っていうね。僕にとっても一生の目標。
湯山 人生をささげて、その文化を担う人と観客がと切磋琢磨(せっさたくま)して「これは私が育てるぞ」って。老後の活動にもおすすめです。
黒い自分が許せない (50代・女性)
他人への憎しみや嫉妬心が消えません。努力もしていないのに、こんな気持ちを持つ黒い自分が嫌いです。
どうすれば変われるでしょう。
黒と白の両方を持つ
グレーな大人がいい
石田 あなたは「自分は黒い」と認識しているから大丈夫。ブラックイズビューティフル。芯から真っ黒な人は、自覚がありません。それに白いだけの人も駄目。何かに取り込まれて、いいように使われるだけだから。大人って、白いところと黒いところが両方あって、きれいなグレーに育っていくのがいいんですよ。
湯山 グレーがキープできるのが大人ってことよ。嫉妬心のようなドス黒いものとすごくきれいなもの、その両方が共存しているのが人間。人って、昨日と今日で考えすら変わるのが当たり前。それなのに今、その揺らぎに耐えられなくなっているからね。
石田 白黒すぐつけたがって、SNSに滅茶苦茶な書き込みをしちゃう。でも、いい小説を書く人は、だいたい黒い心を持っているものです(笑)。
湯山 そりゃ、石田さんですかね。腹黒い男(笑)。
相談のプロに聞くお悩み解決の裏側
司会 湯山さんは、白黒はっきりしつつも最後に愛を感じる回答が多く、石田さんはネガティブをポジティブに変換して伝えている印象があります。
湯山 生きていると、必ず戦わないといけない場面がある。特に仕事へのお悩みには「そこで引いてどうする」という気持ちで回答しています。
石田 たくましい。兄貴と呼んでついていきたい(笑)。僕は悟りを開いているタイプかな。湯山さんの答えは、厳しく言っても炎上しないよね。
湯山 単なる駄目出しでは終えずに、思いやりも添えるようにしているの。これもまた、「戦い」の極意ってヤツですよ。
司会 回答する際に意識していることはありますか?
湯山 私は裏をかくことかな。質問している時点で、欲しい言葉ってあるし、それをこちらはだいたい推測できる。占い師だったら、そこを当てにいくでしょうけど、人生相談で欲しい言葉はあげないんですね。
石田 僕がひとつ思っているのは、相談相手はもちろん、その先にいる読者を納得させたいって気持ち。
湯山 それが、わざわざ「なやみのとびら」を読んでもらう価値ですよね。
質問者はもちろん読者にも生きるヒントになるような回答を心掛けています