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私目線の経済学

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お金持ちだけの問題ではない!
「相続税」のアレコレ

ちょっぴり話しづらく、あまり知らない「相続」のお話。前半 では、遺言書や、遺産分割についてご紹介しました。後半はより深く踏み込んで、近年改正された税制や節税対策など、気になる「相続税」について考えていきます。

お金持ちだけの問題ではない! 「相続税」のアレコレ

うちには相続税がかかる? かからない?

「相続税って、一体どのくらいかかるのだろう?」と、不安に思われている人もいるかもしれませんが、まず伝えたいのは「相続税はすべての人にかかる税金ではない」ということ。一定額以上の遺産がある場合にのみ課税されます。
では、そのボーダーラインとなる「一定額」とはいくらでしょう。それを知るためには「相続税の基礎控除」の確認が必要です。相続税の基礎控除とは、「相続で得た財産から一律で差し引くことができる額」のこと。具体的な金額は下記の計算式で算出します。

相続税の基礎控除額の計算式

相続税基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人(※)の数)

(※)法定相続人とは、民法で定められた相続人のこと。一般的に故人の配偶者と子を指す。

例:妻と子ども2人など、法定相続人が3人の場合

3000万円+(600万円×3人)=4800万円までが基礎控除額。相続で得た財産がこれを下回っていれば、相続税の申告の必要はない。

基礎控除の計算式は、2015年までは【5000万円+(1000万円×法定相続人)】でした。法定相続人が3人だったケースに当てはめると、当時の基礎控除額は8000万円。基礎控除額が約3000万円も減ったことになり、法改正によって「相続税の課税対象者」が広がってしまったのです。
さらに、都心部に住んでいる人は、地価がどんどん上がっている点も要注意。なぜなら「所有地の価格が思ったより上がり、かからないと思っていた相続税がかかってしまう!」というケースが発生しているからです。いざとなって慌てることがないよう、ご自身の状況をしっかり把握しておきましょう。

相続税は事前にシミュレーションしよう

国税庁では、相続税の申告が必要か否かをおおむね判定できるシートを提供しています。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sozoku-tokushu/souzok-kanihanteih27.pdf

まずは、我が家に相続が発生した際、申告の対象になるか否かを確認しましょう。
申告が必要だとわかったら、次のステップとして、相続税がだいたいどれくらいの額になるのか把握することが大切です。これについては、金融機関や税理士事務所などのサイトで、無料の試算ツールが提供されていますので、「相続税 シミュレーション」といったキーワードで検索してみるとよいでしょう。

ただし、実際に相続税がいくらかかるかは、相続が発生した際の不動産評価額や株価などにより変動し、誰がどのような割合で相続するかによっても変わりますので、正確に知りたい場合は専門家に相談しましょう。

その日のために、今、行う節税対策

さて、具体的に相続税がかかるとわかった場合、何をしておくとよいのでしょう? それは「納税資金対策」と「節税対策」です。

納税資金対策

まずは「納税資金対策」から。これは、その名のとおり相続財産に見合った納税資金を確保しておくことをいいます。
相続税は、相続発生から10ヵ月以内に現金での一括納税が原則。それまでに現金を揃えておく必要があるのです。しかし、日本の一般家庭では、主な財産が自宅などの不動産のみで預貯金はわずかしかない、といったことも少なくありません。この場合、納税資金を用意するのに自宅を売却しなければならず、遺された妻や子どもが住む場所を失うというケースもあります。
こんなとき、強い味方となってくれるのが生命保険です。なかでも終身保険は、どんなに長く生きても保障が続き、亡くなった場合はすぐに遺族に現金が支払われるので、納税資金対策として活用されています。

節税対策

次に税金を合法的に減らす「節税対策」です。

生命保険生命保険

保険は、「納税資金対策」と同時に、有効な節税対策にもなります。受取人を指名できるので、相続争いを防ぐ手段として有効なうえ、死亡保険金で受け取る場合、法定相続人1人あたり500万円まで非課税になります。預貯金だとまるまる課税対象になることを考えると、保険はかなりお得ですよね。

暦年贈与暦年贈与

亡くなる前に財産を譲り渡す「生前贈与」も節税対策のひとつ。もっとも基本的かつ、取り組みやすいものとして挙げられるのが「暦年贈与」です。これは、1月1日~12月31日までの「暦上の1年間」に贈与した金額が110万円以下の場合、非課税となる制度です。
だからといって、毎年同じ額を譲渡し続けていると「予定していた贈与額を分割して渡していただけ」とみなされ、課税されてしまう可能性も。そんな事態に陥らないように、あらかじめ少し多めに贈与し、毎回若干の贈与税を納めるという方法を使う場合もあるようです。実際に暦年贈与を行う際には、税理士に相談するとよいでしょう。

住宅取得等資金の非課税制度住宅取得等資金の非課税制度

住宅購入は、多くの人にとって一生で1番大きな買い物といわれるくらい、多額のお金が動きます。たくさんの人が住宅を購入すれば、国にとっても景気対策としてありがたいこと。そのため、住宅購入のための資金としてであれば、最大3000万円まで贈与しても税金がかからない制度が作られています。

教育資金の一括贈与非課税制度教育資金の一括贈与非課税制度

「教育資金の一括贈与非課税制度」は、「子どもが30歳になるまでの教育資金」であれば一括1500万円まで非課税で贈与することができるというものです。信託銀行に口座を開き、資金を引き出すには教育のために使ったことを証明する領収書が必要など手続きは面倒ですが、かわいい孫を応援したいという気持ちを満たしながら節税できる一石二鳥の制度で、人気があるようです。

生前贈与の制度はこのほかにもありますが、制度ごとに利用できる期間なども定められています。さまざまな条件を総合的に判断してから活用してくださいね。

普段から相続について話し合っておきましょう

日本人の多くが信じているという言霊(ことだま)の存在。それだけに、亡くなったあとの話をするなんて「縁起が悪い」と思われる人もいるかもしれませんが、現実的に考えて相続は避けては通れない話。老後の資金を考えるうえでも、遺産はとても大切です。できるだけ賢く、お得に生きていくためには、万一のケースも敬遠せずに、しっかり向き合い話し合っていきましょう。

和泉昭子(いずみ・あきこ)

和泉昭子(いずみ・あきこ)

株式会社プラチナ・コンシェルジュ会長/生活経済ジャーナリスト/ファイナンシャル・プランナー/人財開発コンサルタント。

出版社・放送局を経て、フリーのキャスターに。 NHKを中心に、ニュース・情報番組を担当。1995年CFP ®(ファイナンシャル・プランナー上級資格)を取得して現職。現在はメディア出演や講演活動、個人相談などを通じて、マネー、キャリア、コミュニケーションに関する情報を発信している。

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