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特集:キッチン水回りの除菌対策

家庭での食中毒を防ぐ! キッチンの正しい除菌術

2018/05/12

口の中に入れるものを扱うキッチンの水回りは、家庭での食中毒対策の肝となる大事な場所。特に気温や湿度が高くなり、菌が繁殖しやすくなるこれからの季節は注意が必要です。

「家庭で食中毒なんて起きるの?」と思う人もいるかもしれませんが、家庭は2番目に多い発生場所。厚生労働省の調べによると、2017年には1000件以上食中毒が発生しました。その1割は家庭で起こっています。「なんとなくおなかが緩い」といった軽めの症状でも、場合によっては食中毒にかかっている可能性もあります。

そこで、家庭の中でも気になるキッチンについて清潔に保ち、健康な食生活を送るための除菌の知識について、衛生微生物研究センター主席研究員の李 新一さんに教えてもらいました。

食材に直接触れる
調理器具に要注意

食中毒を防ぐうえで特にしっかり除菌を行いたいのは、まな板や包丁など、食材に直接触れる調理器具です。

というのも、食中毒を引き起こす菌(食中毒菌)の多くは、肉や魚介類、野菜などの食材に付着しているものだからです。

肉や魚の身は、解体するときに腸などの内臓に触れることで、大腸菌やサルモネラ菌などの菌が付着します。また、土の中で育った野菜には、土壌中に多く存在するセレウス菌やウェルシュ菌などが付着しています。

肉や魚介類は買ってきたらすぐに冷蔵庫に入れて保存する。また調理の際にはしっかり加熱するなど、保存や調理の方法に気をつけることはもちろん大切です。

しかしどんなに気をつけていても、それらの食材を切ったりする際に、まな板や包丁には菌が付着します。その後の洗浄を行っても、菌を全て取り除くことはできず、残った菌はたった一晩で驚くほど増殖します。前日には10個程度だったものが、翌日には数億個にも増えてしまう場合もあります。

細菌が増殖する要素には「温度」「水分」「栄養分」の3つがあります。

温度

細菌の種類によって増殖に適した温度は違いますが、食中毒菌の多くは30~37度の間で増殖が活発に進みます。

水分

増殖には水分が不可欠です。室内の湿度が低くても、まな板や包丁などが濡れていれば、増殖します。

栄養分

調理器具などに残った食材や油などの汚れが、細菌の栄養になります。

以上のことから、まな板や包丁などに食中毒菌を繁殖させないためには、次の2つが必須になります。

1.細菌の栄養になる汚れが減るように、しっかり洗浄する。
2.水分を残さないよう完全に乾かす。

この2つを基本として、除菌を行いましょう。

調理器具は使用ごとに
除菌するのがベスト

除菌は、主に以下のような方法や漂白剤・除菌剤などを用いて行うことができます。ご自宅のキッチンの条件などに応じて、適材適所で使い分けるとよいでしょう。

加熱(煮沸)消毒

ほとんどの菌は熱に弱いので、加熱は効果的です。

家庭で行う場合は、熱湯をまな板や包丁にさっとかけるだけでも除菌効果は得られます。ふきんなどの除菌には沸騰したお湯に入れて5~10分ほど加熱するのも有効です。

日光消毒

日光にさらし、紫外線を利用して殺菌します。外に出すことが可能な環境であれば、しっかり洗浄したまな板などを適宜日光に当てるのも効果的です。

塩素系漂白剤、アルコール系除菌剤などによる消毒

塩素系漂白剤を溶解させた水の中に調理器具や食器、ふきんなどを浸して、除菌や漂白、洗浄を行います。

エタノールやクエン酸などを配合したスプレーやシートは、調理器具や調理台などにシュッと吹きつけたり、さっと拭いたりするだけで、手軽に消毒することができます。

なお、漂白剤や除菌剤は規定の量や時間をきちんと守ることが大切です。薄めて使ったり、ごく短時間で済ませたりすると除菌効果が得られない場合もあります。

なお、除菌は調理器具を使い終わったらそのつど行うのがベストです。先にも述べたとおり、食中毒菌は一晩で大量に増殖します。何億個にも及ぶ菌を除去するのはどんな方法でも非常に大変なので、まずは「菌を増やさないこと」を心がけましょう。

もちろん、食材に直接触れる機会の少ない洗いかごや食器用のスポンジ、ふきんなども毎日清潔に保つことが大切です。

雑菌が繁殖している台ふきんで調理台やテーブルを拭くと、かえって菌を広げてしまうことになりかねません。台ふきんを使うなら毎日殺菌消毒するか、あるいは使い捨てのペーパーやシートなどを使うことがキッチンを衛生的に保つ秘訣の一つです。

実は手指にも多い菌。
こまめにせっけん洗いを

食中毒を防ぐためには、手指の洗浄も極めて重要です。健康な日本人の約3割が常在菌として保有しているといわれる黄色ブドウ球菌が、手指を介して食品に入ります。普段手に常在している限りでは問題は起こしませんが、増殖して食中毒を引き起こす場合があるからです。「手で握ったおにぎりを食べたらお腹を壊した」といった場合も、黄色ブドウ球菌による食中毒の可能性があります。

キッチンではこまめに手を洗っているから大丈夫、などと油断するのは禁物です。使用後につけ置きされた食器を触った手には、意外なほど多くの菌が付着しています(下のグラフ参照)。

  • 調査方法:試験前の手の菌数をスタンプ法を用いて調べた後、つけ置きされた食器を洗った直後、水洗い直後、せっけん洗い直後の菌数をそれぞれ同様に調査。
  • 出典:衛生微生物研究センター調べ

しかも、水洗いしただけでは多くの菌が手に残ったままだということもこの調査で明らかになりました。

食材に触れる前はもちろん、つけ置きした食器を触った後なども、せっけんで丁寧に手指を洗う習慣をつけましょう。

李 新一さん

李 新一

衛生微生物研究センター 主席研究員

生活環境に存在する細菌やカビなどの微生物が、環境や健康に及ぼす影響やその被害を防ぐため何をすべきか、日夜調査研究を行なっている。また、それら問題の解決のため、企業などに試験結果やアドバイスを提供している。

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