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特集:45歳、55歳、65歳は食生活の転換期

健康長寿のための"本当にいい食べ方"

2018/07/07

日本人の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳と、世界1、2位を争う長寿国ですが、健康寿命はそれよりも10年短く、寝たきりなどになって健康で過ごせない期間が約10年あります。高齢になっても元気に過ごすためには、若い頃からの食習慣が大切です。今の食生活に見られる問題点や、取り入れられる対策、知っておきたい栄養の知識について、千葉大学大学院教授・同大学医学部附属病院副病院長の横手幸太郎さんにお聞きしました。

若い世代は「栄養過多」
高齢者は「たんぱく質不足」に注意

糖尿病、高血圧、脂質異常症......、40代を過ぎると、気になる人が増えてきます。糖尿病の有病者と予備軍はそれぞれ約1000万人にのぼります(平成28年国民健康・栄養調査)。こうした生活習慣病の大きな原因は、ご存じの通り食生活にあります。

食生活の問題は、多くは「栄養過多」ですが、年代によって少しずつ違います。

若い世代では、やはり食べ過ぎや偏食が問題になります。

ただし、20〜30代の若い女性に限っては、ダイエットのために摂取エネルギーが極端に低いなど、逆に低栄養による「やせ過ぎ」が深刻な問題です。20代女性の5人に1人がBMI18.5未満の低体重(やせ)と報告されています(平成28年国民健康・栄養調査)。免疫力が落ちて感染症にかかりやすくなったり、将来の骨粗鬆症の予備軍となるだけでなく、そうした女性から生まれる低出生体重児は将来的に肥満や糖尿病になりやすいということも分かっています。

女性では、更年期にあたる45歳くらいから、気をつけていただきたいことが増えてきます。大きくホルモンバランスが変わってきて、同じ生活をしていてもコレステロールや中性脂肪が上がりやすくなり、一方で骨が弱くなるといった変化が起こるのです。それまで問題のなかった食生活を見直す必要が出てくるということです。塩分を減らす、動物性の脂を控えめにする、といったことに気をつけることが大切です。

55歳あたりでは、それまで健康上の問題がなかった人でも、血圧や血糖値など気になることが出てくることが多いものです。自分の問題に応じて、食生活を見直したい時期といえるでしょう。

そして、65歳以降の高齢期になると、栄養過多とは反対に、必要な栄養が足りない、ということが少しずつ起こってきます。特に75歳以降では、「フレイル(虚弱)」や「サルコペニア(筋肉減少症)」が増えるという問題が生じています。平均的には、昔より高齢者の身体機能は高まっていますが、徐々に食が細くなり、活動量も減っていくと、フレイルやサルコペニアのリスクが高まります。特にたんぱく質の不足は筋肉の減少に直結するので、意識して魚や肉を摂るようにしていきたいところです。

「糖質制限」は必要?
夕食の主食を半分に

それでは次に、どの世代でも共通で意識したい、具体的な「食べ方」のポイントを見ていきましょう。

まず、何かと話題になる「糖質制限」ですが、ただ糖質を減らせばいいというわけではありません。

日本はもともと欧米に比べて炭水化物(糖質)の摂取量が多く、米に依存する食生活でした。おかずが豊富になった今は、栄養過多を防ぐ食べ方として炭水化物を減らす糖質制限が注目されるようになりました。

そうした背景も鑑み、日本糖尿病学会は、現在、総エネルギー摂取に占める炭水化物の割合として50〜60%を推奨しています。ちなみに現状では、炭水化物エネルギー比率は56.9%(平成28年国民健康・栄養調査)なので、全般的にはそれほど摂り過ぎということはないといえます。

ただ、BMIが25以上の肥満者も男性3割、女性2割にのぼりますので、そうした人は、炭水化物の割合を40〜45%くらいに下げると、少なくとも短期的には効果がありそうです。ただし、生活習慣病のリスクがそれほど高くない人が長期的に炭水化物20%以下の極端な制限をすると、かえって弊害が大きいのではないかといわれています。状況に応じてマイルドに炭水化物を減らすことをお勧めします。

実践する際の目安としては、ご飯や麺類などの主食を半分〜7割程度にすることで「腹八分目」にすると考えれば分かりやすいと思います。デスクワークであっても昼間はエネルギーを消費しますから、朝食や昼食はある程度食べ、夜は特に食べる時間が遅いとエネルギーを消費しきれませんから、夕食の糖質を控えるというのが無理のない方法ではないでしょうか。

"いい油"は積極的に摂りたい
青魚やアマニ油、くるみがお薦め

次に「油」を考えてみましょう。油にも種類があり、大きく、肉の脂身などに含まれる「飽和脂肪酸」、オリーブオイルや魚の油などに代表される「不飽和脂肪酸」があります。
飽和脂肪酸は、摂り過ぎると糖尿病や動脈硬化を招きやすくなることから、総エネルギー量の7%以下(2000カロリーの食事の場合で15g程度)と目標量が定められています(日本人の食事摂取基準2015年版)。

不飽和脂肪酸にも種類があるのですが、このうち「n-3系脂肪酸」と呼ばれるグループのDHAやEPA(青魚などに含まれる)、α-リノレン酸(アマニ油などに含まれる)は、積極的に摂りたい油です。血液をサラサラにして固まりにくくしたり、中性脂肪を下げたりという効果が知られているほか、血管壁に直接作用して動脈硬化を予防するという報告もあるからです。

ただし、いくら多価不飽和脂肪酸が体に良いといっても、摂り過ぎればカロリー過多になりますので、適量が大事です。また、古くなったり、高熱で長時間調理したりすると、構造が変化してしまうことがあるので注意してください。

■n-3系脂肪酸を含む食材
主な脂肪酸 多く含まれる食品
α-リノレン酸 アマニ油、シソ油、えごま油、なたね油、くるみ など
EPA イワシ、マグロ、サバ、ブリ、サンマ など
DHA マグロ、ブリ、サバ、サンマ、ウナギ など

ビタミンD不足にも注意

摂り過ぎが問題になるものもある一方で、不足しがちな栄養素もあります。それは、ビタミン・ミネラルなどの微量栄養素や食物繊維です。

こうした栄養素を補うには、野菜を食べるのが効果的です。私自身も、野菜を多く摂るよう心がけています。また、先に挙げたような「n-3系脂肪酸」を含む魚を食べるのもお勧めです。

筋肉の減少を防ぐという面では、赤身肉や鶏胸肉などのホワイトミートも最近注目されています。これらは分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)という必須アミノ酸を多く含んでいて、筋肉の維持増強に有益なのではないかといわれています。特に高齢者の方には、バランスよく色々な食材からたんぱく質を摂ることを意識していただきたいと思います。

もう一つ注意していただきたいのが、ビタミンDの不足です。ビタミンDは通常の食事をしていれば日光に当たることによって皮膚で作られますが、最近は紫外線カットを徹底する人が増え、十分に日光に当たらなくなっていることから、特に女性に不足している人が増えているようです。65歳以上の人で、血液中のビタミンD濃度が低いことも話題になっています。ビタミンDが不足すると骨粗鬆症などの原因にもなるので、場合によってはサプリメントを利用するなどして補っていただくといいと思います。

人生100年時代をずっと健康で楽しく過ごすために、いい食生活を習慣にしていきましょう。

横手幸太郎さん

横手幸太郎

千葉大学大学院医学研究院細胞治療内科学講座 教授
千葉大学医学部付属病院 副病院長

1988年千葉大学医学部医学科卒業。同第二内科入局。東京都老人医療センター医員の後、ルードウィック癌研究所(スウェーデン)客員研究員、スウェーデン国立ウプサラ大学大学院博士課程修了(Ph.D)。1998年千葉大学大学院博士課程修了(医学博士)。千葉大学助手を経て、2009年千葉大学医学部附属病院 糖尿病・代謝・内分泌内科科長。2011年千葉大学医学部附属病院 副病院長 併任。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医、日本糖尿病学会専門医・指導医など。

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